きみが死ぬまでそばにいる
それから追試までの間、わたしは部室で毎日のように陸の勉強をみた。たまに他の部員がやってくることもあったが、基本的に自由な部活だったので誰も何も言わない。泉には後でからかわれたけれど。
そして、教えてみて分かったことだが、陸はどちらかというと要領がいい。同じことを二度言わせることはほとんどなかったし、覚えも早い。
勉強ができない、というのは語弊がある。おそらく勉強していなかっただけなのではないか、と思った。
追試が行われる前日、なんとか全教科を仕上げた。陸が参考書を閉じて息を吐いた時、外は既に暗くなっていた。
「本番は明日だからね。気を抜かないで頑張ってね。絶対に一緒に旅行行こうね!」
「はい。本当にありがとうございます。先輩のおかげて、なんとかなりそうです……なんとお礼を言ったらいいか……」
「そんなの気にしなくていいよ。わたしがやりたくてやってるだけだから」
歯の浮くようなセリフも、この頃は随分自然に言えるようになった。陸はいちいち素直な反応を返してくれるから、やりにくさはあまり感じない。こんなに善良な少年が、不倫男と不倫女から生まれたと思うと、この世は理不尽だと思う。
奇しくも、陸とわたしは帰り道が同じだった。同じ路線の、同方向。最寄り駅が二駅離れているだけだったから、必然性的に一緒に帰ることになる。
当たり障りない会話をたくさんした。わたしにとっては、話の内容なんてどうでもよくて、ただ陸の心に入り込むためのもの。表面上は笑っていても、楽しくないし、おもしろくもない。
だけど陸は、本当に楽しそうに笑った。