きみが死ぬまでそばにいる
わたしは成長するにつれ、自分の家の異常に気づいていく。
この頃には、父はほとんど家に寄り付かなくなっていた。
表向きは「仕事のため」の別居。母自身がそう言っていたのに、母は毎夜帰らぬ父を嘆いて泣く。父のことを訊ねれば、ヒステリックになって叫んだりもした。
それでも、母は娘のわたしには父の悪口は言わなかった。
ただ一人で病んで、病んで、落ちていった。
わたしが父の不倫を知ったのは、中学生になってから。祖父母に貰ったお小遣いを貯めて、探偵を雇った。
この年頃になれば、大体の想像はついていたし、父に愛人がいたことにはそれほど驚かなかった。
驚くべきはその先。父と愛人の付き合いは、母よりも長かったのだ。出会いってからの時間も、男女としての仲も。
ならば何故、父は母と結婚したのか。
その答えは、母の実家と父の実家にあった。父の実家は会社を経営していて、父はその家業を継いでいる。しかし当時、会社は経営難で、会社の存続には莫大な資金が必要だった。
そこに現れたのが、資産家の一人娘で父に恋した母。
父は母と結婚し、母の実家からの支援金で会社の立て直しに成功する。
その間、愛人との関係は続けたままで、わたしが産まれた翌年には異母弟すら産まれていた。
父は結局のところ、少しも母を愛してなどいなかったのだ。
夫婦としての生活はほんの短い期間だけ。
あとは仕事と称して、愛人のところに通っていた。
母の不幸は、その心の弱さだったのかもしれない。
ついに病に倒れ、死に至るまで、母はとうとう父を糾弾することができなかった。
親にも、娘にも自らの苦しみを告白できずにこの世を去った。可哀想な人。