きみが死ぬまでそばにいる
堕ちる
 
 気持ちを見透かされた動揺の中、愚かしい考えが頭をよぎった。それは、手にしてはいけない禁断の果実だ。
 ああ、でも。なんて、美味しそうなんだろう。

「好きになってなんて、贅沢は言いません。俺が好きでいるぶんには、問題ないでしょ?」

 健気なのか、独りよがりなのか。甘い綺麗事ばかり吐き出すその口にやはり苛立つ。
 少しは落ち込んだそぶりも見せればいいのに、そんなところは全くない。
 むかつく。もっと傷つけばいい。絶望すればいい。

「そこまで言うなら、試してみる?」
「え?」

 目を見開いて、驚いたような陸の顔が可笑しい。

「見返りを求めないなんて、虚しいでしょう? わたしを本気にさせたら、きみの勝ち」

 きみを好きになるなんて、天地が引っくり返っても、ない。
 だけど、好きになったふりならできる。優しい先輩が、優しい彼女になる。
 どうして今まで考えなかったのだろう。
 それが一番、きみを傷つける効果的な方法だ。道徳や倫理を犯す、覚悟さえあれば。

「いいんですか? 俺、本気にしますよ」
「……いいよ。部長のこと、忘れさせて?」

 都合よく優しい男にすがる、傷心の女のように微笑む。忘れてしまいたいのは、嘘じゃない。
 だけど、かわいそうな子。この勝負は初めから、どちらに転んでもきみの負けが決まっているのに。
 
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