きみが死ぬまでそばにいる
帰りの電車の中、夕焼けに染まった湘南の空が遠ざかっていく。
隣に座った泉は、始終ご機嫌だった。
付き合い始めたばかりの彼氏との初旅行は満足のいくものだったようだ。のろけたくて仕方なさそうな泉だったが、わたしに気を遣ったのか部長とのことはあまり話さなかった。
「ねぇ、紗己子は今日どうだったの。水族館で椎名くんといたでしょ。もう告白された?」
不意に直球がきて、どきりとする。
「そんなんじゃないよ、本当に。弟みたいな感じ」
「でも絶対、紗己子のこと好きだと思うんだよね」
「そうかなあ」
「もう。紗己子ったら」
陸とわたしの関係は誰にも言わない。それがわたしが陸と付き合う上での条件。
無自覚小悪魔だと言うなら、そう思わせとけば良い。どうせ長くなる関係でもないのだし。
「わたしのことより、泉はどうだったの。キスくらい、したの?」
からかうように言えば、純情な泉は顔を真っ赤にして俯く。
そしてぽつぽつと語りだした惚気話を聞きながら、わたしは自分が意外と冷静でいることに気づいた。
不思議とあの焼けるような嫉妬は感じない。ただ自分との違いに笑えてくる。
復讐の先にあるのは、幸せなんかじゃない。そんなことは分かっているけれど、許せなかった。
きみだけが、幸せになるなんて。