きみが死ぬまでそばにいる
母の実家はもともと資産家だったし、母が箱入り娘だったことは疑いようがない。けれどわたしは母方の祖父母には可愛がられてきたものの、母が死ぬまで一緒に住んだことはなかった。
もちろん、裕福な生活には違いなかっただろうが、毎夜嘆きながら酒に溺れる母を見て育つ環境が、恵まれていたとは思わない。
『そうなんですか? 先輩……一年男子の間じゃ、一つ上に超金持ちで美人の深窓の令嬢がいるって噂になってて。俺、気が気じゃなくて』
陸が妙なことを言うものだから、わたしは思わず吹き出してしまった。
勝手なイメージだとは承知しているが、自分が「深窓の令嬢」からかけ離れていることは自覚している。見かけはともかく。
『……先輩?』
「――大丈夫だよ。心配しなくても、わたしはきみと付き合ってるんだから」
『でも、それは、俺を好きになってもらったわけではないし……』
陸は時々、ひどく自信がなさそうに言う。あの日、水族館でわたしの部長への気持ちを暴いてみせたのとは、同一人物には思えない時がある。あれほど自信満々にわたしを好きだと言い切った男でも、好かれるかどうかには自信がないらしい。
しかし、それも当然かとも思う。愛情や恋情なんて不確かなもの。わたしの母は、一時すらも愛されはしなかったが。
「確かに、そういう約束だったけど……わたしだって、全く好きでもない人と付き合ったりしないよ?」
電話の向こうに、沈黙が訪れた。おそらく、陸は照れて顔を赤くでもしているのだろう。
本当に、容易い。