きみが死ぬまでそばにいる
泉からもたらされた知らせは、授業が始まった後もいつまでもわたしの頭の中を支配した。
陸が浮気なんて、あり得ない……と思う。
そういう器用な男には見えないし、昨晩の電話でも普段通りだった。彼は今も、わたしのことが好きなはず。
だけど、キスするなんて――外国人じゃないんだから、普通じゃない。もし、もしも本当に浮気だったら?
わたしは彼女として、どう振る舞うべきなのか。
もやもやとした感情が、ぐるぐると巡り続ける。
そんな思考の中に、わたしを呼ぶ声がした気がした。
「……、……菅原さん、聞いていますか?」
我に返って顔上げた時には、数学の教師の不機嫌な顔と、クラス中の好奇の目がわたしに向けられていた。
黒板には数学の問題。どうやら――たぶん、当てられている。
「菅原さん? 体調が悪いの?」
「……いえ、大丈夫です」
「なら、前に出て問題を解いて下さい」
視線を下に落とすと、ノートに書いた文字が途中で止まっている。一体いつからこの状態なのかも思い出せなかったが――仕方ない。
わたしは小さく「はい」と答えて、立ち上がった。途中、泉が心配そうにこちらを見ていたから、大丈夫と笑って見せる。
予習をしていて良かったと、この時ほど思ったことはない。