きみが死ぬまでそばにいる
陸は、愚直なまでに真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
それは不思議と、わたしを落ち着かせた。
浮気ではなかった――陸の言い分を信じるならば、だけれど。
――大丈夫。冷静に、いつものように、演じればいい。彼のことが好きな、彼女のふり。
「本当に? 信じてもいいの?」
「先輩が気にするなら、天童とはもう話しません。だから、信じて下さい」
文字通り、陸は必死だった。わたしもという彼女を繋ぎ止めるために、部室に一人、あの子を残して追いかけてきた。好きなのはわたしだ、と言って。
それが何故かどうしようもなく気持ちいい。きっと、それはこの計画が限りなく順調だからだ。この哀れで愚かな弟が、滑稽で可笑しい。
この先――どうせきみは思い知るのに。全ては嘘で偽りで、きっと絶望しか残らない。
だから、今だけは許してあげる。かわいそうなきみを許してあげる。
たとえ故意でなくとも、他の女とキスしたことを。
「話もしないなんて、そんなことしなくていいよ。ごめんね、みっともなかったよね。でも本当に誤解で良かった……わたし、嫌われちゃったのかと」
好きあっている恋人同士なら、嫉妬するくらいは普通のことだ。何もおかしくなんかない。
イライラしたのは……暑さで少し、疲れていただけ。
「嫌いになるなんて、そんなわけないじゃないですか。それに俺、本当はちょっと嬉しかったんです」
「……嬉しい?」
首をかしげたわたしに、陸は幼くはにかんで見せた。
「だって……妬いてくれたくれたってことは、俺のこと好きでいてくれてるってことじゃないですか!」
嬉しそうな陸に、あえて違うとは言わなかった。
これは「役」だから。これでいいのだ。わたしは何も間違えていない――全部上手くいっている。
自分にそう言い聞かせることにばかり必死になって、わたしは考えることを避けた。