きみが死ぬまでそばにいる
恐れる
「やだな、先輩。変な冗談やめてくださいよ」
陸は最初、笑っていた。
わたしがあまりにも突飛なことを、平然と言ったせいもあるだろう。陸は、わたしの言葉をすぐには信じなかった。
「……こんな冗談は言わないよ。わたしの父は、きみのお父さま。わたしたちは、腹違いなの」
「何――言って、」
陸の瞳が不安げに揺れた。わたしはできるだけ、それを見ないようにする。
「優しい両親に囲まれて、何も違和感はなかった? あの男は、母とわたしがありながら愛人と通じていたんだよ。きみの母親は、汚らわしい泥棒猫。そしてきみは不義の子――滑稽だね、今の今まで何も知らなかったなんて。でも、幸せだったでしょ? 何も知らない方が、ずっと幸せなの」
「そんな――嘘だ。俺は――父さんは……」
幸せだった日々が、一瞬のうちに崩れさってゆく。きみだけが何も知らずにいるなんて、もう許されない。
「嘘だと思うなら、聞いてみればいい。きっと真っ青になるでしょうね」
陸の視線は宙をさ迷う。未だ、信じられない、受け入れられないという顔だ。
ずっとその顔が見たかった。もっと、もっと、傷つけばいい。
「……先輩、は……ずっと知っていて? じゃあ、俺と付き合ったのは……」
ここまで来れば、流石の陸もわたしの悪意に気づく。今にも泣き出しそうな顔で、震える声で、恐れるようにわたしを見た。