きみが死ぬまでそばにいる
「そうだよ。わたしから全てを奪ったくせに、何も知らずに幸せそうにしているきみが嫌いだった。だから、教えてあげようと思ったの、本当のこと。ねぇ――ずっと、聞きたかったんだ。今、どんな気分?」
陸は答えなかった。いや、答えられなかった。
茫然と空を見つめる陸にはわたしを非難する気力すらないように見える。
これ以上は無駄だと悟って、わたしは作り笑顔やめた。
――どうして。
この胸の痛みも、息苦しさも少しも収まらない。
わたしはきっと物足りないのだ。この程度の不幸では、満足できないほどに欲深いに違いない。
「……帰るね。今までありがとう」
これまでの人生で一番ショックを受けているであろう陸を置いて、逃げるように部屋を出る。幸いにも、陸の母親には会わなかった。そのまま走って、一気にマンションのエントランスまで出た。
外はまだ明るく、日差しがじりじりと照りつける。ようやく立ち止まって肩で息をしながら、わたしは怖くて仕方がなかった。
わたしは――おかしくなってしまった。ずっとこの時を待っていたはずだったのに。陸を不幸のどん底に突き落とす、この時を。
――それなのに。
少しも嬉しくないのは、どういうことか。
「……っ、ぐ」
その時、とうとう込み上げてくるものをこらえきれなくなった。
それは拭っても、拭っても、止まらない。
とめどなく溢れる、この涙の正体は。
――苦しい。
この気持ちををなんというのだろう。
わたしは知らない。知らなくていい。