きみが死ぬまでそばにいる
「ううん、そうじゃないの。ただ、今日は用事があるって聞いてたから」
皆川さん以外は、咄嗟の笑顔と嘘で誤魔化すことができたと思う。だけど彼女は、彼女だけは信用ならないという顔で、ずっとわたしを睨み付けていた。
もしかしたら、天童さんが何か話したのかもしれない――そう思った時、部室の扉が開いた。
「すみません、遅れました!」
急いで来たのか、彼の額には汗が浮かんでいた。それでも、いたって普段通りに見える。
まるで、何もなかったみたいに。
「あ、椎名くんも来たね。じゃあ、始めようか」
部長が言ったのをどこか遠くに聞きながら、わたしの視線は思わず陸に釘付けになった。
不意に――視線が重なる。
そして、あろうことか彼は、わたしに笑いかけたのだ。
「――っ!」
すぐに視線は逸らした。けれど、心臓が早鐘のように鼓動を打つ。
だって――ありえない。あれだけのことがあった後で、わたしにまた笑いかけるなんて。
確かに昨日は、かなりのショックを受けていたはずだ。それなのに、今日はもう、何食わぬ顔でわたしの前に現れた。
ただの能天気なら、まだいい。でも、そうじゃなかったら……?
「……紗己子、大丈夫? 真っ青だよ?」
隣に座る泉にそっと声をかけられて、今がミーティングの真っ最中であることを思い出す。
「……ごめんね、何でもないよ」
泉に囁き返して、なんとか前を向く。
今はちゃんと集中しないと――……
得体の知れない恐怖に、酷く怯えた。
自分が何か、大きな失敗をしてしまった気がして。