【短編】スキキライダイスキ
ベンチに座った日向に、私の陰がかかる。

「あ、れ…?蕾ちゃん?」

「名前呼びの許可を出した覚えはないけどね」

「つれないなー。何?俺に何か用?もしや惚れたー?」

日向は、汗を拭きながら綺麗に微笑んだ。

「足。捻ってたよね」

日向の靴紐を結ぶ手がピタリと止まる。

「気づいてたの?」

「まあね」

わー降参、とまた笑う。

「誰にも気づかれてなかったのに」

返事をせず、しゃがんでベンチの下に置いてある救急箱から包帯とテープを取り出した。

「足、出して」

「え、や、あの」

「早く」

「いや、汗めっちゃかいたしそれに」

日向がしどろもどろになる姿は意外に面白い。
じぃっと眺めていると、彼は顔を赤くして足を出した。

「もうやだ俺…婿に行けないー」

聞いたことないな婿バージョン。

「行けるよ日向は」

「蕾ちゃんが貰ってくれる?」

なぜだかとっさに顔に熱が集まる。

「ヒモになるつもりなの日向」

それだけ言ってくるくると足を軽く固定する。

効果的な巻き方は知っている。

「慣れてるね、蕾ちゃん」

「そうでもないから。それより」

手早く巻き終えて顔をあげ、日向と視線を合わせる。

「相手は前が弱い。次のレシーブでアングル狙って。そのあと何回か前に落として、頃合い見てクロスかストレートの深いとこに打ち込んで。そうしたら」

「蕾ちゃん?」

休憩終了の笛が鳴った。

「絶対、勝てるから」

日向が慌ただしくお礼を言ってコートに入る。

私も小梅の隣へ戻った。

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