見上げるは福寿草、君は春という名の天使。
序章

ーーーー海を、落ちる。


 波に揉まれて体の自由が奪われていく。酸素を求めて開く口からでる泡。沈んでいく体に抗うために伸ばした右手は水面に届かず、誰の目にも触れられない。


ーー僕は、死ぬのか。


 もう、体の感覚がなくなってきた。


ーー苦しい、助けて。助けて。


 苦しみに喘いでも、泡沫の如く命は散る。


ーーたすっ、たす、け…て。


 意識が朦朧とし、本当に死ぬのかと最後の希望の糸を放しかけた。



『大丈夫。私が、居る』



 最期の刻、糸は解れて、千切れた。

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