♡〜ラブアドバンス〜独女歩数計オムニバス形式♡






数十分前、映画館で席を間違えたことを謝罪すると「お腹すきません?」いきなり言われて答える間もなく「苦手なものは?」と聞かれたのだ。

「苦手なものは……イタメシです」
イタリア料理屋で冷たい対応をされた日から、イタリア料理が苦手になっていた。
何故か成り行きで一緒に歩いて劇場を出た。
「そう、だったら手羽先は?」

「手羽先……は、好きです」

「良かった。じゃ、ご馳走しますね」

「いえ、ご馳走してもらう理由が無いので」

「理由かぁ。貴方が座席を間違えたから、奢ります」

「え、悪いのは私ですから」

「悪くなんかないですよ。悪いのは、俺です」

「え?」

「えぇ、俺の腹が空いているので手羽先食べに貴方に付き合って貰えたらなぁと思いついてしまったから。悪いのは俺です」

ニッコリと笑った顔に、ギャップを感じた。映画が始まる前にちらっと私を見た時は、少し険しい表情で怖い印象だった。
だが、話してみると怖い印象とは反対に人懐こくて柔らかい印象に変わった。

思わず、くすっと笑みがこぼれる。

「可笑しい?」

「はい、少し」

「参ったな」
困ったように横を向いた男。

「なんだか私、ナンパされたみたい」
流されるままノコノコと手羽先の美味い店に向かって歩いていた。

「ナンパでしょうね」

「そうだったんですか?」

「それだと嫌ですか? 嫌なら……」

「嫌なら、どうなるんですか?」
隣を歩く男を見上げた。

「嫌ならナンパじゃないことにしましょう。そうだなぁ、映画の後、偶然手羽先を食べに行きたくなって向かう店が一緒だったから並んで歩いているだけ……みたいな感じに」

「並んで歩いてるだけなら、店に入ったら別々の席ですよね?」

「それは、困ります。俺は貴方と一緒に食べたいんですから」

一瞬だけドキッとした。

映画館で席を間違えたことから、ふいに混じり合うことになった不思議な縁を感じた。





改めて、テーブルを挟んで目の前にいる数分前まで見知らぬ男だった男を眺めた。

「?」
私と視線を合わせた岡田さんが言葉を発しないまま『何か?』と問いかけていた。

「慣れない人と食事するのは、緊張して」
手汗をかいたので、またおしぼりで手を拭いた。

「……」

何も言わない岡田さんが気になり、おしぼりを置いてから岡田さんの方を再び見た。
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