明日はきっと晴れるから
とぼとぼと歩いて、廊下側の列の自分の席に静かに座った。
仕方ないよ……。
虐められているわけじゃないし、不安になりすぎたらダメ……。
そんな風に自分に言い聞かせてみるけど、ヒソヒソ声がどうしても気になって、耳を塞ぎたくなる気持ちがした。
その時、うつむく私の机の上に、文庫本が一冊、ポンと置かれた。
驚いて顔を上げると、結城くん。
まだ、いてくれたの……?
結城くんは机のすぐ横の壁に背を持たれて、もう一冊の文庫本を読み始めた。
「結城くん、あの……」
「その本、徳波文庫の新刊だよ。
宗多さん、好きだろ?
今、読みなよ。俺もチャイムが鳴ってホームルームが始まるまで、ここで本を読むから」
「そんなことしたら、結城くんが遅刻扱いになっちゃうよ!」
「いいから。気にしないで、本を開きなよ」
遠巻きにしているクラスメイト達は、私と結城くんに怪訝そうな視線を向け、何かを囁き合っている。
結城くんは全く気にならない様子で、静かに本を読んでいた。
私は結城くんの綺麗な顔をしばらく見つめて考え込んでから、机の上の文庫本を手に取った。
この表紙を開けば、私はすぐに物語の世界に夢中になって、周囲の雑音が聞こえなくなるだろう。
結城くんは、それを知っている。
私が弱いことも知っている。
結城くんが隣にいてくれることで心強く思うことも……きっと知っている……。
結城くんが貸してくれた本は、私の大好きなシリーズ物のミステリー小説の最新作。
そのページを開くと……二行目を読んだところでもう早、意識の大半が物語の世界に引き込まれていた。
ヒソヒソ声も、腫れ物に触れるような視線も忘れるくらい。
今、このひと時だけのことだけど……ーーーー。