明日はきっと晴れるから
明日はきっと晴れるから
◇◇◇
自分って、なんだろう……。
あの頃の俺は、そんなことさえ考えられないほどに、自分というものを持っていなかったんだーーーー。
暑い暑い夏のある日のこと。
母親とのふたり暮らしに入ってから、約1年。
引っ越しはこれで3回目。
1週間前に越してきたばかりのこの部屋も、前に2ヶ月間住んでいた部屋と大して変わらない家具付きの部屋だった。
朝、起きてきた “ 私 ” に母親は、笑顔で今日着る衣服を手渡してきた。
「さーや、今日はこの水色ワンピースを着ようね」
「うん」
私の名前は、結城真臣(マサオミ)。
でもずっと、記憶にある限り昔から、母親は私を『さーや』と呼ぶ。
『さーや』は、姉の名前。
私が生まれた3ヶ月後に3つ歳上の姉は事故で亡くなったのだと、以前父親がこっそり教えてくれた。
当時、母は狂ったように泣き叫んでいたが……
姉の死亡事故のひと月後、赤ん坊の私を『さーや』と呼び、嬉しそうに笑っていたそうだ。
パジャマを脱いで母親に渡された水色ワンピースを着ると、寝癖のついた私の長い髪を母親がブラシでとかし、サイドを編み込みにする。
「さーやの髪はサラサラね」
と言いながら、母親は「ウフフ」と笑う。