明日はきっと晴れるから
ゆっくりと歩み寄り、彼と3メートルほどの距離を開けて立ち止まった。
「あの……」
緊張しながら、声をかけてみる。
でも、なぜか彼は顔を上げなかった。
あれ? 聞こえなかったのかな?
半歩前に出て、もう一度声をかけてみた。
「結城くん……ですか?」
やっと彼が、視線を手元の文庫本から私に移した。
彼の前髪が風に流され、サラサラと額に戻ってきた。
「来てたのか。気付かなかった。
本の世界に入り込むと、周りが見えなくなるんだ。呼び出したのは俺なのに、悪かったな」
気付かなかったことを謝ってくれた結城くんの表情は、つかみ所がなかった。
申し訳なさそうではないし、不愉快そうな顔でもない。
ニコリともしないし、無表情と言っていいほど感情が伝わってこなかった。
喋り方も淡々としているから、今彼がどんな気分なのかが全くわからない。
結城くんは持っていた文庫本を閉じて、学生鞄にしまおうとしていた。
その際に表紙が見えて、私は思わず「あっ」と声を上げた。