明日はきっと晴れるから
それは徳波文庫の新刊だった。
『町角ベーカリー 小麦堂 3』
パン屋を舞台にしたミステリー小説で、1巻と2巻は私も持っている。
予想もつかない事件が次々と起こるから、ワクワクドキドキして夢中になって読んだ。
3巻が出たら絶対に買おうと思っていたけど、そっか、今月発売だったんだ。
昨日、春町くん達と街を歩いた時に、やっぱり本屋に寄ればよかった。
あ、でも……お金が……。
春町くんが出してくれたカラーリング剤の代金1520円を、今日のお昼休みにこっそり彼に返していた。
やっぱり同じ高校生である彼に買ってもらうのは、間違っている気がして。
春町くんには『お母さんがちゃんと返しなさいって、お金をくれたから……』
そんな嘘の説明をしたら、『そっか。良かったね〜』と疑わずに代金を受け取ってくれた。
貯金箱のお金はどんどん減っていく。
春町くんのグループにいると、これからも貯金を崩さないわけにいかないよね……。
『町角ベーカリー 小麦堂 3』
すっごく読みたいけど、諦めようかな……。
結城くんの本を見て、そんなことを考えていた。
文庫本をしまおうとしていた彼の手が止まり、私に表紙を見せるように持ち上げた。
私がよっぽど物欲しそうな顔をしていたのか、彼は「この本、読みたいの?」と聞いてきた。