明日はきっと晴れるから
気がつくと、空は茜色に染まっていた。
グラウンドを走り回るサッカー部員達の影が、長く東へ伸びていた。
中庭は半分以上が校舎の影にすっぽりと包まれ、薄暗さを感じる。
腕時計を見るともう17時半を過ぎていて、ここに来てから2時間も経っていた。
「私、もう帰らないと……」
そう言った私の手に、結城くんは文庫本をポンと置いた。
「貸すよ。俺はもう読み終わったから。
さっきは2回目を読んでいたんだ」
「いいの?」
「ああ。他に人に貸す予定もないし構わない」
顔がパッと明るくなるのが、自分でもわかった。
お金がなくて買うのを諦めていた『町角ベーカリー 小麦堂 3』
この中にどんな素敵な物語が綴られているのだろうと、ワクワクして今すぐに読みたい気分だった。
「結城くん、ありがとう!」
満面の笑みでお礼を言った直後に、結城くんに真顔でこんなことを言われた。
「本を貸す代わりに、一つだけお願いを聞いてもらえるかな。
宗多さんを呼び出したのは、それを言いたかったからなんだ」