明日はきっと晴れるから
春町くんにキスされそうになった時と同じくらいに、驚いていた。
結城くんだ……。
結城くんが、私を運んでくれたんだ……。
黒いサラサラの前髪と切れ長の二重の瞳は、確かに結城くんの特徴と一致している。
それでも彼が私を運んでくれたと思わなかった。
だって結城くんは、体育館二階のギャラリーにいたから、真っ先に私に駆け寄る事はできないと勝手に思って除外していた。
そういえば倒れた直後に、ズダンと響く大きな音と振動を感じた気がする。
あれは、結城くんがギャラリーから飛び降りた音だったんだね。
足、きっと痛かったよね……。
あとでお礼と迷惑かけてごめんねって、言いに行かないと。
結城くんのことを考えると、鼓動がドキドキ速度を増していた。
それは、緊張してしまうせい。
お礼の他に、彼に聞きたいことがあった。
いつも私のことを『宗多さん』と呼んでいるのに、体育館で『菜乃花』って呼んだのはどうして?
それは、私と結城くんが過去に出会っていたからなんでしょう?
何度か記憶の中から浮かび上がったあの図書館。
そこで小さな子供の頃、私達は話したことがあるんでしょう?
前に特進クラスの前で『過去に結城くんに会ったことがあるのかな?』と聞いても、何も答えてくれなかったから、気のせいかもと思っていた。
でも今は、それが確信に変わろうとしている。
結城くんは私との思い出を持っていて、私はおぼろげな図書館の記憶だけ。
忘れてしまって申し訳ないけど、どうしても思い出せないから教えて欲しい。
遠い昔の小さな私達の間に、どんな物語があったのかを……。