あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
「あの、たしかに私は部外者ですけど、この先にカフェもありますし、場所を移してそちらで話し合ったほうがいいんじゃ……」

 環境を変えて腰を据えれば、男も少しは苛立った気分が落ち着くかもしれない。今より幾分マシになれば上出来だろう。
 
 それに、どこかの店内であれば、無茶なことはできないと咄嗟に頭が回ったのだ。
 例えば樹沙ちゃんに対し、荒々しい怒声をあげたり掴みかかれば、他の客もいるのだから店員に止められるはず。

「ねぇ、そうしよう?」

 樹沙ちゃんも落ち着いて話したいのか、私の意見に賛同した。
 困り顔のまま再び男性の腕にそっと触れたが、彼女のか細い手を、男性は嫌そうに振り払った。

「お前、俺の言ってることを全然聞かないよな? どんだけ話したって同じだ。俺はもうこれ以上無理」

 いったいなにを揉めているのだろうか。
 恋人同士のただの喧嘩……というには、空気が重々しく感じる。
 ならば尚更、お互い納得のいくように、きちんとそれぞれの言い分を聞く必要があると思う。

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