あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
 ここで一瞬、架くんの言葉が止まった。
 そしておもむろに樹沙ちゃんが手にしたままだった茶封筒を取り上げ、中身を確認する。

「五万なんてはした金、手切れ金にもならないな。バカじゃないのか?! 彼女が貢いだ分、全部返せとは言わないからもっと誠意を示せよ!」

「はぁ?!」

「自分が父親じゃないなんて言い訳しても、生まれてきた子のDNAを鑑定すれば一目瞭然だ。責任逃れはできない。覚悟しとくんだな!」

 架くんの正論を耳にし、男性がチッと大きく舌打ちをした。
 そしてギロリと私たち三人を睨みつけ、スタスタと足早に立ち去っていった。

「すみませんでした。おふたりを巻き込んでしまって」

 樹沙ちゃんが呆然と地面に視線を落としながら、手のひらで涙を拭いつつつぶやいた。

「ううん。私、関係ないのに勝手に介入して、結局役に立てなかった。ごめん」

 最初は良からぬ男が樹沙ちゃんに乱暴をはたらくかもしれないと誤解して、咄嗟に口を挟んでしまった。
 それが彼氏だとわかっても、揉めている原因がなにか、詳しい事情がわからないから、どう仲裁すればいいか戸惑ったのだ。

 さらに架くんが乱入してからは、男同士のやり取りにただ圧倒されるだけだった。
 私は結局傍観するだけで、情けないくらいなにも役に立ってはいない。

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