あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
 ――― 樹沙ちゃんは私だ。

 私は愛されている。
 私たちはうまくいっている。
 なにかに憑りつかれたように修次への愛にのめり込み、信じて疑わなかったあのころの幼い私と同じではないか。

「私は他にはなにもいらないから、彼と歩む人生が欲しかったんです。独りよがりな願望だったかもしれないけど、結婚して、そのうち子供ができて、休日には家族で楽しくどこかに出かけるような、普通の幸せが欲しかった。でも……私には高望みだったんでしょうか」

 私はあのころはまだ大学一年で、修次との将来は考えていなかったけれど。
 樹沙ちゃんは彼氏との未来を見据えていたのだ。その分、私より遥かに傷は深い。

 幸せな結婚をして、幸せな家庭を作りたい。
 それを夢見て悪いわけがなく、樹沙ちゃんには高望みだなんて、あるはずがない。

 私は無言で大きくかぶりを振ると、再び涙が溢れ出た。
 傷ついた樹沙ちゃんを上手に慰めたかったが、胸が詰まってしまって言葉が出てこない。

 ただ、一緒に泣くことしか……私にはできなかった。

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