あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
 あとで聞けば、その男は前の会社の同僚で、元カレでもなんでもないただの知り合いだったようだ。紛らわしい。

 こんなことでいちいちヤキモキしていたら俺の心臓がもたない。早くこの状況を打破しなければ。
 そうは思うが、空回りして歯車がいっこうにかみ合わないのだ。


『女にお金を貢がせる男なんて最低よ』

 会社で樹沙ちゃんの話をしていたら、ふとした拍子に葉月さんがそう口にした。
 もちろんそれは、あのろくでもない樹沙ちゃんの彼氏のことだが、俺は自分に言われてるような気になって、軽くへこんだ。

 ホスト時代の俺の太客は、別に俺が店を辞めてもなにも思わない人がほとんどだろう。
 多少残念がってはくれるだろうが、他のホストへ鞍替えするだけだ。

 だけどふと、普通の会社員だった純子さんのことが頭に浮かんだ。

 彼女は俺に貢ぐようにハマり、金を工面しては店に来てくれていた。
 給料もボーナスも、生活費以外は俺にすべて使っていたと思う。
 はっきりとは聞かなかったが、夜も時折バイトしていたのではないだろうか。

 俺が突然辞めてしまったあと、彼女はどうしただろう。

 ホスト遊びをやめ、自分のために金を使う人生に戻ってくれていたらいいのだが。

< 211 / 273 >

この作品をシェア

pagetop