あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
「待たせてごめん」

 ボーッとしながら助手席に座っていると、架くんがあわてて運転席に乗り込んできた。
 近い距離だったけれど走ってきたせいか、彼の額に薄っすらと汗が光っている。

 車が静かに発進しても、私たちはお互いに無言だった。

 肝だめしイベントの帰りに車で送ってもらった日を思い出す。
 あのときと同じく、架くんの運転は丁寧で上手だ。
 だけど今は一切会話がなく、逆にそれが不自然極まりない。

「ちゃんと水分取らないと」

「……え?」

 前触れなく、前を向いて運転したままの架くんにそう言われ、意味がわからなくて聞き返してしまった。

「体調悪いのは、軽く熱中症なんじゃないか?」

「あ、ううん……大丈夫」

 車が信号待ちで止まり、そのタイミングで架くんが私の顔を覗き込むように凝視した。

 緊張して口から心臓が飛び出しそうになるからやめてほしい。
 体調は悪くない。そう念押ししようとしたところで架くんが先に口を開いた。

「今日の葉月さんは口数も少ないし、やっぱり変だよ」

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