あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました

「樹沙ちゃん、私を不憫(ふびん)に思うなら代わってくれない？」

「残念ながらそれは無理ですね。私は人見知りだから潜入には向いてないです」

　社長は気弱そうな樹沙ちゃんにはこんな無茶な仕事を言いつけない。
　そのあたりはきちんと空気が読めているようだ。

「架さんも一緒ならいいじゃないですか。ずっと腕を掴ませてもらえば大丈夫ですよ」

　私にくっつかれたら架くんは至極迷惑だろう。なにを言いだすのだと樹沙ちゃんに対して口を尖らせた。

「あ、でも。あんまり架さんと仲良くしたら、社長に怒られちゃいますかね」

　樹沙ちゃんは少し離れたフリースペースで話をしている社長と架くんを見ながら声をひそめて言う。

「あのふたり、やっぱり仲いいですよね。噂されちゃうのもわかる気がします」

　どういう経緯で架くんがここで働くようになったのか、実は社長以外は誰も知らない。
　わかっているのは架くんの前職がホストだった、ということだけだ。

　樹沙ちゃんの指摘通り、架くんと社長は仲がいい。
　そのせいで大きなお世話だが社員のあいだで噂がいろいろと流れたりする。