あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
 先程話しかけられたオカルト好きな男性も会場内にいて、すでに男女四人ほどで集まって会話を楽しんでいた。
 時折、「おぉ~」とか「すご~い」などの感嘆の声が耳に入ってくる。どうやらみんな、自身の怪奇現象の体験談を自慢げに語っているようだ。

 遠巻きに聞いているだけでゾッとしてくる。あの男性に捕まらなくて本当によかった。もっとオカルト話が聞こえないところへ離れたい。

 実はもうすでに喉がカラカラで、乾いた体に水分を補給したくて仕方なかった。
 私はドリンクが並んでいるコーナーへ自然と足を向け、なにを飲もうかとしばし考え込んだ。

「どれを飲みますか? いろいろありますよ」

 後ろからそんなふうに声をかけられたので、てっきりスタッフの男性だと思い、なにげなく振り向いた。
 けれどその人はイベントに参加している男性だったらしく、私の真後ろに立ち、にこにこと微笑んでいる。

「なかなか洒落たフレッシュジュースなんかも取り揃えてますね」

「そう……ですね」

 あはは、と私も笑顔を作ってみたけれど、今すぐに逃げ出したいのが本音だ。
 仲良くするつもりなどないのだから、交流は最小限で済ませたい。
 だけど男性が私の行く手を阻むように立ちふさいでいる。

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