あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
 たしかにそうだ。足元には割れたガラスなどもあるし、他にもなにが落ちているかわからない。つまづいて転んだりしたら大けがをする恐れがある。

 私たち男女のペアにひとつずつ懐中電灯が手渡された。

「あの! 懐中電灯はひとりにひとつではないんですね」

 思わずその女性を呼び止めて確認した。少しでも明るいほうがいいのに、なぜひとつなのか、と。

 だいたい昼間に来ても薄暗くて気味が悪い場所なのに、どうしてわざわざ夜にうろつきに来たいのか、オカルト好きな人の気持ちがさっぱりわからない。

「はい。ふたりでひとつです。お相手の方と仲良く使ってください」

 そう言われてしまえば返す言葉がない。スタッフとしては、盛り上げるためにしていることだ。
 少しでもカップルが成立するように。
 そこは私も同業者なので理解できる。スタッフに罪はない。

「私が持つよ!」

 足元が暗いのは怖いので、架くんに手渡された私たち用の懐中電灯を、意気込みながら奪い取った。

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