あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
「な、なに?」

 意味がわからないわけではない。彼は気を使って私と手を繋ごうとしてくれているのだ。

「手、貸して」

「いいよ。……大丈夫」

 若かりし頃の、あの苦い思い出から十年経つが、あれから私は男性と手を繋いでいない。
 地味に大人しく生きてきた。……いや、自分からそういうシチュエーションを避けてきた、が正しい。

 だからだろうか。こういう切羽詰った状況に(おちい)っても、手を繋ぐという行為はすんなりと受け入れられない。

「大丈夫じゃないくせに。強がっちゃって」

 架くんがあきれ笑う。たしかに私は頑固なところがあるし、柔軟性もない。
 でもずっとそうやって生きてきた。それをすぐには変えられないのは仕方ないと思う。

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