あなたの狂おしいほどの深い愛情で、もう一度恋ができました
 扉の前に立ってノックをしようと右手を振り上げたけれど、話し声が聞こえてきたために、そのまま手をダラリと下げてしまった。
 しばしどうしたものかと立ち尽くした。よく考えれば、時間を置いて出直すしかなかったのに。
 きっと中の様子が気になったからだと思う。聞こえてきた声が、架くんのものだったからだ。

「ダメよ。私が無理だって言わないとでも?」

「当然そういう反応だと予想してたよ。でも確信したんだ。……本気で好きなんだよ」

 いったいなにについて話しているのだろう。
 冗談を言いあっているようではなさそうだし、仕事の話ではないのはたしかだ。

「架、アンタ真面目に言ってる?」

「ああ。大真面目だけど? 俺と凪子さんの仲だし、こんな話で嘘はつかないよ。俺のこの気持ちは本物だ」

 これ以上立ち聞きしていい内容ではない。ここでようやく気づいた私は(きびす)を返した。

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