貴方に会えたから。





あれからしばらくして、翔はまた目を覚まさなくなった。





先生に呼ばれた。




「おそらく、翔さんに残された時間はもうほとんどありません。次に目を覚ました時、それはきっと翔さんとの最後の会話になると思います。覚悟して下さい。
翔さんの脳腫瘍の癌は全身に転移しています。心臓にも相当の負担がかかっていると思われます。心臓がいつまで持ちこたえられるかもわかりません。そして、翔さんには内緒にしておいて欲しいと言われていたんですが、延命治療は望まないということなので私たちもできることは限られてきます。」



途中から先生がなにを言っているのかわからなかった。



全身から血の気がひいた。




これが現実なの?




今、身近に人の命の危機があるのに自分はなにもできない。




自分の無力さに腹がたった。




「そうですか、翔が延命治療は望まない、そう言ったんですね。」




「翔さんは今まで沢山の辛い治療を乗り越えてきました。もちろん貴方の支えがあってこそだと思います。そして、本人もいろいろ考えた上で決断したんだと思います。」




先生のその言葉は私に重くのしかかった。






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