傷む彼女と、痛まない僕。


 今度こそ教室を出ようとした時、

 「北川!!」

 小山くんが僕に向かって何かを投げた。

 飛んできた物をキャッチすると、

 「吉野の家、駅から結構歩くから、ここからチャリで行った方がいいよ。 オレの貸してやる」

 それは、小山くんがいつも通学時に使っているチャリの鍵だった。

 「ありがとう。 小山くん」

 「オレの大事なマイチャリ貸してやるんだから、ちゃんと吉野の事捕まえるんだぞ!! ・・・本当はオレも吉野の事心配だから、吉野の家に行きたいんだけどさ、振られてるし・・・。 嫌がられるの辛いしさ。 正直、全然傷心癒えてないし、北川の事応援したいと思えるほど心清くもないんだけどさ、もし北川まで振られて、また同じ人好きになるとかまじで嫌。 だから、めっさ複雑ながら応援する。 親友だしな!!」

 『がんばれ』と小山くんがスポーツマンらしい爽やかな笑顔を見せた。

 「吉野さん、嫌がったりしないと思うよ。 小山くんからの告白、嫌じゃなかったと思う。 小山くんから告られて嫌なコなんて、性格腐ってるよ。 ・・・小山くんは、やっぱり『正義』だよ。 誰がどう見たって正義だよ。 僕、頑張って来るね。 ダメだったら慰めて。 てゆーか、慰め合おうか」

 「嫌じゃ、ボケ。 つか、見事に振られてるのに、説得力ないしな!! でも、ありがとな。 そー言われるの、嬉しいわ。 オレ正義だから、今日ちゃんと大ちゃんに謝るよ。 ホラ、早く行けって。 行ってらっさい」

 手を振る小山くんに手を振り返して、全速力で教室を飛び出した。
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