傷む彼女と、痛まない僕。


 留守じゃなかった。 吉野さんは、家の中にいた。

 両手をガムテープでぐるぐる巻きに固定され、助けを呼べない様に口もガムテで塞がれていた。

 そんな吉野さんの髪の毛を鷲掴み、勢いよく口に貼られたガムテを剥がす男が見える。

 その男は、吉野さんから何かを聞き出そうとしている様だった。

 この行為は、きっと何度も繰り返されたのだろう。 吉野さんの唇は腫れ上がって血だらけだった。

 ・・・この男、やり方が汚い。 近所の人間に気付かれない様に、静かに静かに吉野さんを甚振る。

 それでも吉野さんは口を開く素振りを見せない。

 すると男は、再び吉野さんの口にガムテで蓋をしたかと思えば、物を投げつけるかの様に、吉野さんの頭を床に叩きつけた。
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