傷む彼女と、痛まない僕。

 男の指には、引き抜かれ引きちぎられた吉野さんの長い髪が絡まっている。

 「吉野さん!!」

 吉野さんを助け出そうと窓に手を掛けるも、鍵がかかっていて開かない。

 窓の揺れに気付いた吉野さんが、ゆっくり力なくこっちを向いた。

 弱々しく、薄っすらとしか開いていない吉野さんの目が、僕を見つけた。

 僕に向かって小さく首を左右に振る吉野さん。

 『こっちに来るな』と言う事だろう。

 ・・・行くよ。 そっちに行くよ。 助けに行くよ。

 窓を叩き割ろうと適当な石を探し投げつけようとした時、目の前で吉野さんが男に背中を蹴り上げられた。

 洋服が捲れ上がり、吉野さんの背中が露になる。

 吉野さんの背中は、腰までも、青くて黒くて赤くて、古くて新しい痣が犇めき合っていて、健康な肌を捜す方が困難な色をしていた。
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