傷む彼女と、痛まない僕。
「死ぬのは怖いよ。 僕は死にたいわけじゃないから怖い。 僕もたまに『死にたいなー』って思う事もあるけど、僕の病気ってさ、いつ死ぬか分かんないから『本当に死ぬ時がきたらどうしよう』って、いつも頭の端っこでビビってたりするよ」
『死にたい』などと口にする吉野さんは、きっと今、心が荒んでいるのだろうと、吉野さんの気持ちを荒げない様に、共感しながらも否定した。
「北川くんの病気って、直接生命に関わらないって、先生言ってたよね??」
「直接はね。 でも、痛みを感じないから、自分が病気になっていたとしても、なかなか気付けないんだよ。 例えば、盲腸になったとしても気付かずそのまま放置して死んじゃうかもしれない。 治癒しやすい病が命取りになったりするんだよ」
『厄介な病気なんだよ』と吉野さんのいう最強説を覆す。
「だったら、最初から切っておけばいいじゃん。 盲腸って別にいらない臓器なんでしょ?? ガンの遺伝子があるからって、予め子宮とかおっぱいとか切る人だっているんだし」
僕を心配してくれての事なのか、僕の病気をそれでも軽く見ているのか、吉野さんは僕の例え話に反論した。
「盲腸って、免疫機能を高める組織があるから、なくても大丈夫ってだけで、あった方がいいんだよ」
『盲腸はいらない臓器』なんて、吉野さんの若干古い情報にちょっと笑いそうになった。