重ねた嘘とサヨナラを
炊事や洗濯などの家事仕事は、手馴れたものだ。
長州の屋敷でも、同じようなことをやってきたから。
しかし、環境が同じとは限らない。
「……なぜ、ここまで食材がないのかしら?」
新撰組はそこまで貧しいのだろうか?
いや、しかし。
倹約を心掛けていたあの屋敷でも、ここまで酷くはなかった。
これでは、明日の朝ご飯はおろか、今日の晩ご飯でさえ作れそうにない。
買いに行くしかないのか。
けれど、そのためのお金をどこから得ればいいのか。
「……困ったわ……」
そう小さく呟いても、状況が変わる訳もなく。
もう一度土方さんのところへ行くしかない、と心を決めたとき。
「貴女が新しい女中ですか」
笑みを含んだ明るい声がした。
ふっと声の主を見て、私は固まってしまった。
陽気な声と浮かぶ微笑みとは裏腹に、あまりにも冷たい瞳。
目があった者を凍らすことさえ出来そうな。
そんな冷酷な光が浮かぶ瞳。
「高坂夢路と、申します」
その視線から逃れるように、私は深々とお辞儀をする。
「私は沖田総司と申します。よろしくお願いしますね」
でも、と明るい調子で続けられた言葉に。
私は完全に固まってしまった。
「良かったですね。土方さんが女性に優しくて。あの人の拷問は、地獄よりも苦しいらしいから」
相変わらずに彼は微笑んでいる。
なんて返せば良いのか、言葉を探していると、彼がさらに言葉を継いだ。
「さて、土方さんに夢路さんと買い出しに行くよう言われているんでした。全く、私を使うところが、意地悪いですよね」