100%初恋
「初恋って叶わないって本当なんだなぁ」

胸の中で呟いたつもりが、声になっていたみたいで、父がフッと笑った。

「そんなこと言うと、健太が嘆くぞ」

「健太?何で健太が嘆くの?」

「いや、分からないならいいんだ」

自分で言っておいて、はぐらかした父の横顔を見つめた。

「ねぇ、お父さん」

「んー?」

「わたしのお父さんになってくれて、ありがとう」

「どうしたんだ、急に」

「なんとなく。言いたくなっただけ」

「そうか」

「結婚前にセンチメンタルになってるのかなぁ」

ハハハと乾いた笑い声をたてると、ふわっと頭に懐かしい温もりが降りてきた。

「これから凛音を守るのは健太の役目だから、父さんはここまでだな」

ポンポンと叩く温かい手に目を閉じる。

「あのね……」

「うん」

なかなか続きを話さないわたしのことを、父はじっと待ってくれてる。

「あのね」

目を開いて父を見る。父は昔と変わらず、やさしい目でわたしを見ていた。

「わたしの初恋って、保育園の時のヒロ先生なんだよ」

「うん」

「ヒロ先生がまた会えるって言葉、信じて待ってたの。ヒロ先生が、わたしの王子様だと思ってた」

「うん」

「今でもヒロ先生のことが好き」

「うん」

「もう王子様を求める歳じゃないし。迎えに来たのは王子様じゃなくて健太だった。健太と結婚できるのも、ヒロ先生のおかげ。健太もヒロ先生のこと、大好きだったから。だから、ありがとう、ヒロ先生」

父の、ヒロ先生の肩におでこを乗せると、やさしく抱きしめられた。

「娘にこんなに想われるなんて、俺はしあわせな父親だな。凛音は自慢の娘だよ」

明るく言うから、湿っぽくならなくて済んだ。ゆらゆらと揺らしている身体は、本当に嬉しそうだ。
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