秘色色(ひそくいろ)クーデター
バカにされる、いじめられる原因は、ひとつじゃないんだ。勉強だったりスポーツだったり、見た目だったり性格だったり。
自分より劣っている部分を見つけては笑い、自分より優っている部分にすら笑う。
「見返すためってことぉ?」
「……そんなことどうだっていいんだよ、別に、バカにしたければすればいい。そんな奴らを気にするほどヒマじゃないよぼくは」
むすっとした顔で蒔田先輩の言葉に返すと、「ただ」と付け加えた。
「ボクにもできることがある。ボクにしかできないことがある。それは、笑われるようなことじゃないって……自分の自信にしたい」
「……いいじゃん、それ」
それを聞いて、蒔田先輩はぱあっと明るい笑顔を見せた。
「そうそう、そういうの好きだなあ、あたし」
「っな、な……!」
「あー別に恋愛の好きとかじゃないから安心してー。あたし彼氏いるしー」
真っ赤になった先輩をケラケラ笑いながら蒔田先輩が言った。だけど、それはバカにしたようなものじゃなくて、本当に嬉しそうに、楽しそうなもので。
だから、七瀬先輩もあんまり嫌な感じを受けなかったんだろう。呆れたような顔で、ほんのりと赤い頬を隠すように「誰がそんなこと思うんだよ」とそっぽを向いた。
ツンデレだ。多分。
「そうやって自分の特技を自分で認めるのっていいと思うよーほんと。だってそれって長所じゃん」
「まあ、たしかにな。そう言われりゃオレのほうが特技なんてねえもんな……」
「浜岸先輩、サッカーあるじゃないですか」
意外な先輩の言葉に思わず口にすると、「あんなもん特技じゃねえよ」とあっさり否定された。
でも、先輩ってサッカーで有名なんじゃないの? みんな先輩のこと知ってるし。それって特技だと思うけどなあ。
「オレのサッカーなんてちょっとうまいくらいのもんだよ。プロになれるわけじゃねえし。高校出たらサッカーなんてもうしねえだろうしな。ってなったら、いずれ普通のサラリーマンとかになるんだよ。誰でもできるような」
「そう、なんですか?」
「こんな学校だから注目されてるだけだ。中身はクソなのにな」
鼻で、笑う。その姿は自分のことを侮蔑しているように感じた。
自分で自分のことを、クソだという。
なんでだろう。