秘色色(ひそくいろ)クーデター
「あ、お待たせ。みんな結構揃ってるんだね」
ドアがゆっくりと開かれて、鷲尾先輩と柿本さんが中に入ってきた。すぐに榊先輩も。
みんな少し緊張して見える。
正体不明のなにものかを捕まえよう!っていうんだから当然だ。どっちかといえば寝ている浜岸先輩や大和くんのほうがおかしい。
人の気配を感じたのか、大和くんが顔をあげてイヤホンを取ると「俺らも行くか、そろそろ」と私を見た。
無言で頷くと、蒔田先輩と浜岸先輩も腰を上げる。
入れ違いに立森先輩もやってきた。みんな気になっているのか落ち着かないのか、待ち合わせ時間前に全員が集まった。
会長はきっと、いつもの部屋にいるだろう。
「あ、鷲尾。おい、連絡先教えろよ」
「……え、あ、うん。僕の携帯でいい?」
浜岸先輩が思い出したように顔を上げて鷲尾先輩に携帯を差し出す。ふたりが連絡先を交換するのを見てからみんなで階段を上がっていく。
……鷲尾先輩の表情を、浜岸先輩はちゃんと見ていただろうか。
私よりも前を歩く先輩の後ろ姿を見つめながら思った。
今までいじめていた相手と連絡先を交換するってことを、どんなふうに思っているんだろう。
あの瞬間。
浜岸先輩に携帯を差し出されたときの鷲尾先輩は、驚いた顔をした。けれどどこか……嬉しそうに見えた。
生徒会室の隣。いつもの教室のドアを開けると、すでに会長がそこにいて険しい顔で本を読んでいた。
先輩はどんな本を読むんだろう、なんてどうでもいいことを思う。残念なことにブックカバーをしていてなんの本かはわからない。
「あ、そろったなあ」
苦笑交じりに私たちに告げる。
その顔を見れば、やっぱり会長は犯人を捕まえることにあまり乗り気じゃないらしい。
「今のところ、なんの問題もないよ」
「どうだか」
「生徒に危害が与えられそうな問題を見て見ぬふりするほどバカじゃないよ」
大和くんの言葉にパタン、と本を閉じて会長が立ち上がりながら言った。