秘色色(ひそくいろ)クーデター
「でも、一方的じゃない? 集結せよ、とかって、よくわかんないし」
「ね。どこに集まるんだろう。仲間がもういて、その仲間へのメッセージとか?」
「あーあり得る! すっごい本格的じゃん、そこまでいったら。マジでなんかやるのかな」
「でもでもう夏休みだけど。2学期からはじめたりするのかな? それはそれでおもしろそうじゃない?」
「茗子参加するの?」
「まさか。傍観者で楽しむのよ。失敗する可能性のほうが高いでしょ。無理無理」
傍観者、か。
でも、それが一番賢いだろう。
「反乱起こすなら……貼り出しなくしてくれないかなー」
「あはは! 輝またそれ言ってる! どんなけ嫌なのよー」
「だってさー……へこむんだよ結構ー。点数も出ちゃうし!」
「でもわかるよー私だって中学入った嫌だっったもん。ま、来年には慣れてるって。なくなるならそれはそれでいいけどー。運動音痴だし私」
「じゃあ数学だけなくしてほしい!」
そんなくだらない話をしながら笑い合って、1時間以上を過ごしてから近くのカラオケに向かった。
たっぷり4時間。歌えるだけ歌って喉が痛くなってきたころに私たちはそれぞれ別れて帰った。
私立だからか、みんな帰る方向はバラバラだ。
地元の最寄り駅に着いて、近くのバスロータリーに近づく。並んでいる人はあまりいないから、座れそうだ。
ちょうど茗子からメールが届いて携帯を見ているとき。
「ひか、る?」
聞き覚えのある声が聞こえてきて、思わず携帯を落としそうになってしまった。
ゆっくりと声のした方に振り返れば、同級生の女の子が私を見ている。中学時代よりも、髪の毛が伸びている。化粧をしているのか、昔の彼女よりも目が大きく見えた。
……なんで、会ってしまうんだろう。
「ひさし、ぶり」
「……久しぶり」
そっけなくそう返事をすれば、彼女は気まずそうに顔を歪ませた。
私が笑って話しかけるとでも思っていたんだろうか。なんて都合のいい思考回路だろう。そんなことするわけがない。
冷静を装っているけれど、私の心臓は大きく鳴り響いていた。
思い出したくない記憶が蘇る。
今でも、許せない記憶が。
悔しくて、惨めな記憶が引き出されて、ぐっと歯を食いしばった。
「あの」
彼女がなにかを言いかけた丁度そのとき、目の前にバスがやってきて、なにも言わずに乗り込んだ。
椅子に座ると、窓から彼女が私を見ているのがわかったけれど、見えないふりをして携帯に視線を落とし続ける。
どういうつもりで、今、話しかけてきたのか。
なにを言おうとしたのか。
わからないけれど、わかりたくもない。