秘色色(ひそくいろ)クーデター
なにも見なかったことにして、バスに揺られて10分。家の近くのバス停について、定期を見せて降りた。
そしてそのまま真っすぐに家に向かって歩く。
突き当りを右に曲がってすぐの、花がたくさん植えてある自分の家。門を開けて中に入ると「おかえり」と庭にいたお母さんが声をかけてきた。
「ただいま」
「テストどうだった?」
「んー……どうかなあ。中間よりもマシかも」
そう返事をしてドアをけて中にはいると、お母さんも後に続いてきた。庭の手入れをしていたのか、私を待っていたのか、どっちだろう。
どっちもかな。
「友達と、どこか行ってたの?」
「うん」
ためらいがちな質問に、胸がきりりと痛む。
けれどそれを隠すようにして「カラオケ」と笑って答えると、ホッとしたように笑みを向けた。
……そんな、あからさまに心配しなくてもいいのに。
お母さんにとって、お父さんにとって、私は中学生のときの結果が全てなんだと思い知らされる。
仕方のないことだけど。
——『これは、学校に対する、優劣をつけて子供を格付けする大人たちに対する、そしてこの狭い学校という場所で偉そうにしているお前たちに対する、宣戦布告である』
今日、放送で流れた内容が、脳内に響く。
宣戦布告、か。
そうすれば、反乱を起こせば……今もまだくすぶっている私の思いも晴れるのかな。
なにがしたいのか、と言われるとよくわかんない。今更復讐したいだなんて思ってないし、誤解を解いて回れ、なんてことも意味はない。
今は今で楽しい。
茗子たちと仲よく過ごせているんだから、十分だ。
だけど。
見えないふりをして、聞こえないふりをして、笑っている自分のことは、好きになれない。
あんなことがなければ、あの学校には行ってなかっただろう。
私は……行きたかった高校に通って、好きなことを勉強できたかもしれない。地元の公立校で、同じ中学の友達と笑って過ごしていたかもしれない。
片道1時間以上もかけて通学なんてしていなかった。
そしてなにより、声を上げて、戦えたのかもしれないと、思う。
それが、正しいことじゃないと、わかっているけれど。
「今までの私なら、率先して反乱起こす側だっただろうなあー」
呟いて、そんな自分を想像してみた。
もっとも私らしい私が、自然と浮かんで苦笑がこぼれた。
今の私には、できそうもない。それがちょっと、悔しいと思う。