秘色色(ひそくいろ)クーデター
「でも、やめ方がわかんねーんだよ。今更。悪いことをしたって頭ではわかってるけど、心から思ってるわけじゃねえ。こいつだって……て今も思ってる」
鷲尾先輩は、ただじっと、黙って、浜岸先輩を見つめていた。
「だけど、取り敢えずこいつに謝らねえと、前に進めねえんだよ!」
最後にそう叫んで、先輩はがっくりとうなだれた。
そして、それまで黙っていた鷲尾先輩が、「ほんとに」と苦笑を滲ませる。
「ほんとに、きみは自分勝手だよね。謝ってないよ、そんなの」
「……わかってる」
「でも、もういいよ」
やけにすっきりしたような表情だった。
声からは、戸惑いも、怒りも、諦めも、感じない。
「きみの声を、聞けてよかった」
「殴ってもいいぞ」
「……いやだよ。痛いから」
クスクスと、先輩の笑う声が教室に広がる。
それを聞いていると、さっきまで張り詰めていた空気がほぐれていき、自然とみんなの顔にも笑顔が浮かんだ。
「ま、仕方ないわよね。いいんじゃない。楽しかったし」
「ぼくも、わくわくした。自分にもできることがあるんだって、自信になったしね」
「……おれは、もう一度みんなに聞いてもらってたし。ぶちまけて困らせたかったけど……もう、いいや」
みんなが次々に口にする。
私は、嬉しいような取り残されたような、そんな気持ちになっていく。
私は……私は誰に、伝えたかった? 溜め込んだ気持ちを、どうしたかった? そもそも、どうして、こうなった?
「んじゃあもういいよー。私は彼氏の意見無視してみんなに交際宣言しちゃうんだから!」
あーあ、と残念そうに蒔田先輩が背伸びをした。
表情はあまりがっかりしているようには見えない。
「俺は、久に文句でも言うか」
「大和、くん」
「大丈夫だよ、お前も、言えるよ。俺らに一番思ったことを口にできていたのはお前だから。もう、わかってんだろ」
わかってる。ほんとはずっと前から、分かってた。
だけど、どうしていいのかずっとわからなかった。
その答えを、私はみんなともう、見つけていた。
「聞かれなかったなら、聞かせてやれ」
泣き出してしまった私の頭に、大きな手が添えられた。