秘色色(ひそくいろ)クーデター

 昨日のことがあるから駅につくまで落ち着かなかったけれど、幸い誰にも会うことはなかった。

 高校に入って1ヶ月位は毎日のように駅に同級生がいた。
 学校が離れた友達と待ち合わせをしている子もいれば、たまたま会って嬉しそうにはしゃぐ子。

 けれど、それも飽きたのか最近では滅多に見かけない。

 顔を合わせると気まずいから、そのほうがいい。人にどう思われたって今更気にしないけれど、不躾な視線を投げられるのはいい気分じゃないから。

 いつものように学校に着くまでぼーっと外を眺めながら電車に揺られる。たまに吊革広告を見て、綺麗だなあとか、センス悪いなあとか、悪趣味なゴシップの見出しを見つめながら過ごす。

 時間が時間だからだろう、電車の中はあまり人がいなくてゆっくりと席に座ることができた。


 多分、1時位には学校に着くだろうな。
 委員会までどうやって時間を潰そうか。

 そもそもなんで3時とかいう迷惑な時間なんだろう。絶対先生たちにとって都合のいい時間なだけだと思う。
 ゆっくり寝られるからマシだと思ったけど、朝早かったら昼から茗子たちと遊ぶことも出来たのに。

 帰りに本屋とか寄って帰ろうかな。
 でも、そんなことで遅くなったらまた、お母さんとお父さんが怪しむかもしれない。

 ……もう、ほんと、めんどくさい。


 学校に着いて靴箱に向かうと、今日はさすがに靴箱の傍に先輩たちは集まっていなかった。

 そりゃそうか。今日もいたら、毎日相当暇だとしか言いようがない。
 隣のグラウンドではサッカー部と陸上部が練習をしているのが見えた。

 部活動がそこまで盛んじゃないから、人はあんまりいない。

 革靴を脱いで、上履きに脚を通した。ふと顔を上げると、少し先に人影が見える。


「あ」


 と、声を出して慌てて手で口を抑えた。

 けれど、目の前の人には聞こえたらしい。私の方に視線を移してから、ちょっと驚いた顔になった。

 大和くんだ。
 彼が表情を崩すなんて珍しい。

 大和くんは私を見たまま止まっている。……まるで、私を待ってるみたい。
 え!? なんで!? なんでなんで!? 私なんかしたっけ!?
 
 私も靴箱に立ち止まったままだったけれど、とりあえず彼の方にゆっくりと近づいていった。彼は相変わらず私を見続けていて、動く気配はない。

 やっぱり、私を待っているのだろうか。
 なんだろう……釣り上がった瞳は、どうみても私を睨んでいるように見える。

 やばい、すごい怖い。
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