秘色色(ひそくいろ)クーデター
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今の私を彼が見たらなんて思うだろう。
歯を食いしばって戦っていたはずの私が、逃げる勇気もなく、ただ目を閉じて耳をふさいで笑っていると知ったら軽蔑するかもしれない。
もしかすると"仕方ないよね"なんて言って悲しそうに笑うかもしれない。
仕方ないことなんて、この世界にあっていいわけないと、豪語していた過去の私は、今の私を見たらどう思うだろう。
『戦え』
声が、聞こえる。
自分の、君の、立ち向かう声が、鼓膜を刺激する。
なにと、戦えばいいんだろう。誰か、教えてよ。
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夏の制服ほど、通気性の悪いものはないと思う。
背中は汗でびっしょりと濡れてしまって、制服がはりついている。額からも汗が浮いてきて、湿気で体も重い。
黒いスカートっていうのも季節感がない。シャツは薄い青鼠色だし。なんで白じゃないんだ。真夏でもリボン着用を義務付けられているのも納得出来ない。
リボンで学年がわかるようになっているとはいえ夏はかんべんして欲しい。まあ、男子のネクタイよりかマシか。
はあっと吐くため息さえも重く感じた。
ショートボブの髪の毛が、水分で重い。
そして"相田 輝(あいだ ひかる)"と大きく私の名前が入った英語の教科書は、まるで鉛のよう。
「おっはよー、輝! なに朝から暗い顔してんのよー!」
バッシーっと勢いよく背中を叩かれて、思わずバランスを崩したけれど、足を踏み出してなんとか堪える。
振り返れば、今日がそんなに素敵な日なのかと聞きたくなるほどの笑顔の茗子(めいこ)がいた。
内巻きにしたセミロングの髪の毛が、私の髪の毛と違ってふわりと揺れる。私と同じ赤いリボンが可愛さを強調して見えた。
「おはよ、ほんっと茗子は毎日幸せそうだねー……なんなの? 今日のテスト余裕なの?」
「んなわけないじゃん! で、も! 今日でテスト最終日なんだよー?」
「それは嬉しいけどー」
高校生になって初めての期末テスト。今日を乗り切れば明日から終業式までの1週間ほど。実際には10日間は休みだ。今日を乗り切れば明日から夏休みと言ってもいいだろう。
茗子が浮かれる気持ちもわかる。私も本来ならひゃっほーってスキップしながら学校に行きたいところだ。
でも。
今日は私が一番苦手な英語と現代国語。
いや、それだけじゃない。それだけだったら別にどうってことはない。
「順位が貼りだされるんだもんなあー……」
朝から何度目かわからないため息を、空を仰ぎながら吐き出した。
あ、さっき茗子に叩かれたせいで英単語が5個位脳みそからこぼれ落ちたかも。