秘色色(ひそくいろ)クーデター




 大和くんと暫く元卓球部の部室で休んでから、再び同じ道を通って委員会に向かった。1回渡ったからか、2回目はスムーズに移動することができて、大和くんは「やるじゃん」と満足そうに笑ってくれた。

 ジュース買ってくる、と言って私から離れた大和くんは、多分気を使ったのだろう。

 一緒に委員会に出ることで、私がなんて言われるかを、彼はきっとわかっている。だからこそ、ひとりで売店に行った。

 それをわかっていながら私はなにも言わなかった。


 委員会が始まると、プリントを配られる。そこに各クラスの担当場所が書かれている。

 私と大和くんの掃除の担当は3階と4階の移動教室。
 美術室と、生徒指導室と、音楽室と今は使われていない空き部屋。それと非常階段。丁度今日歩いた場所だ。

 3年は1日だけ、靴箱の掃除を全員でするらしい。多分受験への配慮。
 その分高等部の校舎を1年と2年が殆どをする。体育館や運動場、裏庭とかが当たらなかったのはよかった。

 ……大和くんがいるから、まだマシな教室になったのかも。


「なくさないように」


 そう言って各部屋の鍵を受け取った。


「終業式までに掃除して、終わったら鍵の返却に来るように。最終日にチェックするから、嘘つくなよー」


 担当の先生はそう言って、簡単に説明をしてすぐに出て行った。
 掃除はいつでもしていいらしい。チェック項目のプリントを見ながら項目の多さにため息が出た。

 箒ではくだけじゃなく、拭き掃除までさせられるなんて。結構時間かかるんだけど……。


「明日からでいいだろ。昼に来るから」

「あ、うん」


 先生がいなくなって、みんなが計画している中、大和くんは私を見ることなくそう言ってすぐに教室を出て行った。

 ……人のいないところだと、話をしてくれるのに。人がいると冷たい。それが優しさだと気づいてしまうと、どう対応していいのかわからなくなってしまう。

 嬉しいと思う、ほっとする、そんな自分もいるけれど、彼は、そんなふうに振る舞うことを、なんとも思ってないのだろうか。
 そんなわけ、ないよね。


「相田さん、彼と一緒の委員なんだね、大変だね」

「え、あ、うん……」


 隣に座っていた同じ学年の女の子が、私を憐れむようにそう言って、私はそれに曖昧な返事をして笑った。


 ああ、反吐が出る。
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