秘色色(ひそくいろ)クーデター

「ご飯食べてから出かける?」

「うん」


 無理やり明るい声を発するお母さんの目を見ることなく、テーブルの前に腰を下ろした。

 ……中学までは、お母さんになんでも話していた。けれどここ数年、あの日以来、私とお母さんの会話は極端に減った。

 あの頃、お母さんは私のことをなんでも知っていただろう。
 今日はなにがあったか、誰と遊んだか。どんな話をしてどんなことを思ったか、誰と友達で、一番仲のいい子は誰かとか。

 それを言えなくなってしまった。
 言えば言うほど、苦しくなって、お母さんの目を見ることができなくなってしまった。

 そのうち、話をすることをやめてしまった。


「夏休みは、友達と出かけるの?」

「あー、うん。お盆はみんな田舎に帰ったりするらしいけど、平日は……一緒に宿題もするつもり」

「そう、仲よくやっているのね。今度家にも来てもらったら?」


 それは、本当に仲よくやっているのか、調べたいから?
 そんな皮肉が口から出てきそうになって慌てて「うん」とだけを言った。

 家に連れてきていたって……なにも変わらないのにね。

 前だってしょっちゅう家に友達を連れてきていたじゃない。でも、お母さんがわかることなんてなにもない。だって本当はわかろうとなんて、してない。

 バカみたい。

 なにを言っても信じない。
 なにを見せたってわからない。

 そのくせ、なんでもわかるはずだと信じている。わからないのは、私が悪いからなのだと、そう思っているんだ。


 気分がどんどん沈んで行く。さっさと出かけよう。そう思いながら早めにご飯を食べて、家を出た。

 「行ってきます」と声をかけたけれど、お母さんの顔は見なかった。

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