秘色色(ひそくいろ)クーデター
今日は取り敢えず1時くらいに学校に行こうと、昨日大和くんと話した。けれど、今はまだ10時過ぎ。学校についてもまだ11時台だ。
早すぎるけれど、家にいるのも億劫だし仕方ない。
夏休みが始まる前からこんな調子で、大丈夫だろうか。
高校に入ってから、以前よりも家にいるのが窮屈になった。
ひとりだったら、同じようなことが起こるはずがなかった。
でも、友だちができてから、その話が出る度に両親の"また同じことが起こりませんように"という不安が透けて見えるような気がする。
「……あの放送を、聞いたからっていうのも、あるのかも」
そして放送室のドアを開けたから。
はあ、っと憂鬱とも諦めとも言えるようなため息を落としてから、どんより曇った空の中、バス停に向かった。
空を見上げると、眩しいわけでもないのに眉間に皺がよってしまう。
途中の駅でファーストフードに寄って行こうかな。もしくはコンビニでご飯買ってどこかで食べるのもいいかも。
そんなことを考えながら、結局学校にそのまま向かう。
お腹は空いているけれど、なにかを食べる気にはなれなかった。
学校は土曜日ということもあって、いつも以上にしんと静まり返っている。午前中は部活は休みらしく、グラウンドにも誰もいなかった。
「さて、どうしようか」
ひとりごちて、うーんと首をひねった。
待ち合わせまではまだまだ時間がある。
卓球部の部室、はひとりで行くのは気が引ける。放送室に行くのも、まだ早いし、ひとりで行くわけにもいかない。
掃除する教室でひとり時間を潰そうかな。でも、なにをして暇つぶしをしようか。携帯でゲーム、もいいけど生憎最近おもしろいゲームもないし。
そんなことしてたらあっというまに電池なくなっちゃうしなあ。
……久々に本でも読もうかな。
絵本とか。温かい物語と、綺麗な挿絵を見たら、心も晴れるかもしれない。学校にあるかわかんないけど。
大和くんには行かないほうがいいって言われた図書室。
でも、その場に居座らずに、さっとなにか1冊借りて出てくれば。
うん、大丈夫。
さっといってぱっと帰ればいい。休みの日にわざわざ学校の図書室に行く人も多くはないだろう。
「よし」
決心して踵を返した。