秘色色(ひそくいろ)クーデター
なんで、今更私の家に電話なんて……。休み前に駅で会った。私の中ではもう"翔子"ではなく、同級生の女の子だ。私たちはもう、長いこと親しい関係じゃない。
あのとき、なにか言いたげな感じだった。
でも、なんで。今更なんの話があるの。わざわざ電話までしてきて。
私には話すことなんて、なにもないのに。
「い、行って来る」
ガタンと席を立って、そのまま逃げるように玄関に向かった。
背後でお母さんが「輝!?」と呼びかけたけれど、無視して靴を履いてドアを開ける。
聞きたくない! 話なんてしたくない。することもない。
今更……そんなものいらない!
歯を食いしばってバス停に向かって走った。早くここからどこか違うところに行きたい。逃げ出したい。思い出したくない。
——『輝、遊ぼう!』
笑顔で私を呼んでくれたあの子はもういない。
いつも一緒で、親友だなんて言い合っていた日はもう来ない。3年前に終わった関係だ。
今日はいつもよりも空気が湿っていて、太陽の照りつける熱さがない代わりに、体にべっとりと貼り付くような暑さが充満していた。
・
「うわ、ひでえ顔」
非常階段の入り口のドアでうずくまっていると、やってきた大和くんが開口一番そう告げた。
「お前どんどん、ひどい顔になっていくな」
「……ほんとだね、自分でも思う」
あっさり同意を口にすると、大和くんは意外だったのか「あっそ」と返事になっていない返事をした。
高校に入ってから今までは、なにも考えずに笑って過ごせていたのに……あの日から、あの放送を聞いてから、いろんなことが壊れていってしまっている。
殻に閉じこもっていた自分は嫌いだった。嫌なことからも悪いことからも目をそらして過ごす毎日は楽だったけれどずっと霧がかっていた。
一歩踏み出してしまえば、弱くなった自分に気付かされる。
前までの私なら、中学時代の友達が連絡を取ってきたところで、適当に話を聞くことも、頑なに無視することも出たはずなのに。
中学時代のように、思うように行動したいのか。
高校になってからのように楽に過ごしたいのか。
自分の感情がどうしたいのかわからなくて、こんなにも心が乱れる。
この気持ちをどう処理していいのかもう、わからない。