秘色色(ひそくいろ)クーデター

「……なに、これ」


 生徒指導室は、見るからに、荒らされている。
 確か、テーブルと椅子、そして左右にはちょっとした資料が並べられている棚がある。

 それが倒れ、中身が床に散らばっている。順位表の紙だ。
 他にパイプ椅子とテーブルも倒されていて、脚がちょっと曲がっているようにも見えた。
 そして窓ガラスが一枚、ヒビ割れている。椅子かなにかをぶつけたんだろう。

 誰かが、暴れたあと。
 見るだけでそれが分かる。


「ひっでーな。なんだこれ」


 中に入っていく大和くんは、真ん中に立って部屋をぐるりと見渡した。
 彼の視線についていくように私も見る。壁には靴跡もある。
 

「あれ? どーしたのふたりとも」

「っわ、か、会長!?」


 ドアから顔をのぞかせて呼びかけてきた人。この人が現れるとき、いつも驚いているような気がする、私。


「きみらがやったの?」

「んなわけねえだろ。掃除だよ」

「ああ、美化委員か。今日の掃除は大変だねえ。こんなことになっちゃって」


 中に入ってため息混じりにそう呟いた会長は、少なからずこの状態を元々を知っているように思えた。
 部屋を見てもそんなに驚いた様子がない。


「な、なにがあったんですか?」

「んー、これも、縁って言うのかなあ。あんまり他言したくないんだけど、仕方ないか」

「もったいぶってねえで言えよ」

「せっかちだなあ。取り敢えず、生徒会室の隣に一緒に来てくれる? みんないるから」


 みんな、っていうのは……放送部のみんなと、先輩たちもだろうか。

 また大和くんと顔を見合わせて、会長のあとをついていった。ドアの鍵は一応かけといてくれと言われた。

 いつもの教室について、会長が先に入る。会長が言ったように、中にはみんなが揃っていた。

 昨日、あんなことがあったのにどうして集まっているんだろう。
 ぐるりと部屋を見渡して、立森先輩と榊先輩の怪我に気がついた。

 立森先輩は顔に大きな青あざができている。目の上にはかすかに切り傷も見えた。
 榊先輩は右手に包帯を巻いている。


「ど、どうしたんですか?」

「昨日の夜に、襲われたのよ」


 手が痛いのか、左手で右手首をかばうようにしながら、榊先輩がつぶやく。
 その声に立森先輩も「ぼくも」と答えた。


「誰に?」


 大和くんは特に驚いた様子もなく問いかける。
 その質問に、ふたりはちらりと浜岸先輩を見た。
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