秘色色(ひそくいろ)クーデター


「大和くんは?」

「俺はどっちでもいいけど。お前んちほど遠くねえし。まあ1回帰るってのもめんどくせえかな」


 うーん、と再び考え込んだ。
 そして、よし、と小さく声を出す。


「家に遅くなるって電話しとく」


 電話で伝えると、変に疑われそうだなっと思うけれど、よく考えれば、そもそも今日の夜に侵入者をつかまえます、なんて言えるはずもない。ウソをつくことは決まっている。

 だったら、一旦帰って出にくい雰囲気になるよりも一方的に告げちゃったほうが楽だ。

 あとで怒られるなり飽きられるなりされたらいい。


 思い切りよく決めてしまうと、悪いことをするという罪悪感はあるけれど気持ちがいい。


 ふふ、と思わず笑みをこぼしてしまうと、大和くんは「なに笑ってんのお前」と不思議そうな顔を見せた。


「……不安とか、悩みとか、色々あるけどさ」

「うん?」

「自分のしたいことをするのは、気持ちがいいよね」


 また、ひとりになるかもしれない。
 また、前みたいになってしまうかもしれない。
 心配かけたり、怒られたり、悲しませたり。

 それを避けなくちゃと思う気持ちは今もある。だけど、それでも、と自分の思うことを行動に移せるって、一番スッキリする。


 こういうの、そういえばずっと、なかったんだなあ。


 笑顔でそう告げると、大和くんは肩をすくめながらも、笑顔を見せてくれた。


「んじゃ、掃除するか。めんどくせーけど」

「あ、せっかくだから一部屋掃除終わったらご飯でも食べない? 家にも"友達とご飯食べる"って伝えるし」

「あーそうするか。確かに腹減るよな、9時までなんも食わねえとか」


 勢いで誘ってみたそれに、大和くんはすんなりと頷いてくれた。自分で誘っておいてなんだけれど、ちょっとびっくり。


「なに笑ってんのお前」

「え!? わ、笑ってないよ」

「ブッサイクな顔してる」


 し、失礼な!

 そんな私を見て、大和くんは楽しそうに声を上げて笑った。

 こんなふうに笑ってくれる姿を見るのが嬉しくって、怒りもすぐにどこかに消えてしまう。

 ずるいんだから。こんなふうに笑うのを見せられちゃったら……なんだから、すごく、親しくなったみたいに思えてしまうじゃない。

 ついついゆるんでしまう顔を必死に我慢していると、大和くんが優しくほほえんで「ほら、掃除」と私の頭にぽんっと手を乗せた。

< 91 / 151 >

この作品をシェア

pagetop