横顔の君




「照之さん…早く横になって下さい。」

「大丈夫ですよ。
検査でも頭はなんともないって言われたじゃないですか。
ただの傷ですから。」

「でも、縫ったんですよ。
安静にしておかないと。」

「紗代さんは心配性ですね。
たった、一針ですよ。
たいしたことはありません。」

白い包帯を巻いた照之さんは、以前よりやつれた感じに見えた。
少し頬のこけた顔が、穏やかに微笑む。
その笑顔を見ていると、また以前の幸せだった時に引き込まれてしまいそうになった。
また照之さんのことを信じてしまいそうになった。



「紗代さん…どうして僕を避けるんですか?
着信拒否もされてますよね。
でも、僕は、鈍感だから、思い当たるふしがなにもないんです。
もしも、知らないうちにあなたを傷付けていたとしたら、本当にごめんなさい。
しつこい奴だと思われるかもしれませんが、どうしてもその理由が知りたかったんです。
どうして、こんなことになったのか、その理由を知るまでは、僕もあなたを諦めることは出来ない。
だから、番号案内で吉村さんを調べましたし、駅の向こう側にあなたの家を探しに行きましたし、思いつく限りのいろんなところであなたを探し待ち伏せしました。
でも、なかなか会うことが出来なかった…
諦めないといけないと思いながらも、僕はやっぱりあなたを諦めることは出来なくて、今日もまた出かけてしまった。
本当に女々しい男ですよね…でも、そのおかげでやっとこうしてあなたと会うことが出来ました。」

なんと言えばいいのか、わからなかった。



悪いのは照之さんだ。
それは間違いない。
照之さんがあんなことをするから…
そのせいで、私だって、この三か月、どれだけ悩み苦しみ、涙を流したかしれない。
それなのに、照之さんは悪びれた様子一つもない。



それはきっとあのことを私が知っているとは気付いてないからだ。



私が、今、この場であのことをぶちまけたら、照之さんはどんな顔をするんだろう?



今のこの穏やかな表情はどんな風に変わるんだろう?



それを思うと、声が詰まってなかなか話すことは出来なかった。


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